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東京高等裁判所 昭和50年(ラ)468号 決定 1975年10月17日

抗告人 エイミー・ウィボルグ Amy Wibovg

右代理人弁護士 藤沢彰

相手方 デイヴィス・バラガー Davis Bavvagev

事件本人 ミヤ・リー・バラガー Miya Lee Bavvagev

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

まず抗告人代理人は、事件本人の監護者である相手方から、事件本人の養育を委託されたフィリップ・バラガー方における事件本人の監護養育状況が、いかに事件本人にとって良好であるとしても、それはほんの一時的なものに過ぎないから、右状況を事件本人の監護者変更の可否を決する主要な根拠とすべきではないという。

なるほど本件資料によると、相手方は事件本人をそう何時までもフィリップ・バラガーのところに預けておくつもりはないこと、そしてフィリップ・バラガーも一時的ならともかく、そう長く預る気はないことが認められるから、事件本人の現在の監護養育状況が一時的なものであることは、考えられないこともない。しかし事件本人の現在における監護養育状況は、相手方から事件本人の養育の委託を受けた右フィリップ・バラガー方におけるそれのみではなくて、それと共に、監護者である相手方の監護養育の能力・態度等をあわせ考える必要があるところ、事件本人は現在伯父である右フィリップ・バラガー方から、異母姉ステファニーと共にパブリックスクールに通学し、右伯父の家族とも親しみ、生活は極めて安定していること、相手方は事件本人とステファニーの生活費、教育費等の相当額を毎月フィリップに送金し、自らも時に帰国して事件本人らと面接していること、事件本人は出生以来ステファニーと共に育ち、時にはステファニーが事件本人の母親代りともなったこともあったことから同人に親しみ、同人から片時も離れたがらないこと(兄弟姉妹は、一般に同一屋根の下で養育されるのが、その福祉のため必要であるとされている)、そして相手方はゆくゆくは事件本人らを引取って監護養育することを考えていること、一方申立人の夫ルネ・ウィボルグは、申立人が事件本人をその手許に引取ることに賛成し、協力を惜しまない意向を示しているものの、同人との間に男子をもうけるにいたっていることが認められる。右認定の諸事情殊に事件本人がステファニーと別れることをきらっていることを彼此考えあわせると、このような状況の下において、事件本人の監護者を相手方から申立人に変更し、事件本人を申立人の監護の下におくことを相当とする事情はないものというべきである。

次に抗告人代理人は、抗告人は本件当事者間の東京家庭裁判所昭和四八年(家イ)第四三三四号調停事件につき成立した調停において事件本人との面接交渉を認められているにかかわらず、相手方は離婚後における抗告人に対する悪感情に基づき、抗告人の事件本人との面接交渉をきらい、抗告人に事件本人の所在を知られるたびにこれを他に移し、抗告人の面接交渉を妨害しているが、このような狭量にして不誠実な相手方から、事件本人の監護者を抗告人に変更し、事件本人を申立人の監護の下におくことの方が、遙かに事件本人の福祉に合致するという。

本件資料によると、抗告人は本件当事者間の調停事件につき成立した調停において、事件本人との面接交渉を認められていること、しかるに相手方は抗告人に対する悪感情に基づき、抗告人の事件本人との面接交渉をきらっていることが認められ、このことからすると、抗告人が今後事件本人と面接交渉するについて、相手方の協力を期待できないであろうことは一応推測できないこともない。しかしこのことだけから直ちに、事件本人の監護者を相手方から抗告人に変更することの理由とはならない。

その他記録を精査するも、原審判には何ら違法の点は認められない。よって本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおりに決定する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 田畑常彦 大前和俊)

<以下省略>

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